2025年7月3日、ビジュツヘンシュウブ。が主催する特別講座「西洋美術史の『見方』が変わる6か月講座」のリモート説明会が開催されました。
美術ジャーナリスト・藤原えりみ氏と鈴木芳雄氏により、西洋美術史のエッセンスを余すところなくお届けする本講座。雑誌『BRUTUS』の中でも特に人気のある「アート特集」の仕掛け人でもあり、現在でも芸術愛好家から高く評価される数々の人気アート特集を担当した両氏は、本講座でどのような学びを提供したいと考えているのでしょうか。
本記事では、説明会で語られた本講座のポイントや特色について、ダイジェストで紹介します。
ビジュツヘンシュウブ。presents.
「西洋美術史の『見方』が変わる6か月講座」
なぜ宗教美術を理解すると西洋美術の「見方」が変わるのか?
藤原えりみ氏
美術ジャーナリスト、國學院大学・中央大学非常勤講師。
東京芸術大学大学院美術研究科修士課程(専攻/美学)修了後、ライター・編集者、翻訳者として活躍。著書『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)。共著に『西洋美術館』『週刊美術館』(小学館)、『現代アート事典』『ヌードの美術史』(美術出版社)。訳書に、C・グルー『都市空間の芸術』(鹿島出版会)、M・ケンプ『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(大月書店)、C・フリーランド『でも、これがアートなの?』(ブリュッケ)など。『キース・ヘリング アートはすべての人のために』展(中村キース・ヘリング美術館)、『村上隆のスーパーフラット・コレクション』展(横浜美術館)、『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』展(東京都美術館)の図録編集を担当。現在は國學院大学、中央大学で講師を務め、次世代に向けた美術教育を担う。
西洋美術の名作にはキリスト教がバックグラウンドとなっている「宗教美術」の作品が圧倒的に多いです。現代アートであっても、モチーフや構図などは宗教美術の文脈を隠喩しているものもあります。
宗教美術は、まさに西洋美術の骨格を形成したものである一方で、日本人にとってキリスト教の物語はとっつきにくく、「なんだか難しそう」と敬遠してしまいがちなものです。しかし、少しでも背景を知ることで作品の「見え方」は一変します。
実は、本講座のナビゲーターを務める鈴木芳雄氏もその一人。鈴木氏ともう一人の講師・藤原えりみ氏は、長年雑誌『BRUTUS』でアート特集を手がけた仲ですが、鈴木氏が近代以前の西洋美術に興味を持ち始めたのは藤原氏の影響が強いと語ります。
鈴木芳雄氏
美術ジャーナリスト・合同会社美術通信社代表、明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。
ポパイ、アンアン、リラックス編集部などを経て、ブルータス副編集長を約10年間務めた。担当した特集に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「国宝って何?」「緊急特集 井上雄彦」など。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がけている。美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。現在は合同会社美術痛社社代表として独立し、さまざまなメディアでアート関連の記事、アーティストへのインタビュー記事を担当する傍ら、明治学院大学、愛知県立芸術大学で教鞭をとる。ビジュツヘンシュウブ。ナビゲーター
「(藤原)えりみさんと僕は雑誌『BRUTUS』で『西洋美術総まとめ』『奈良美智、村上隆は世界言語だ!』を始め、数々のアート特集を二人で手がけていきました。そうやって二人で仕事をしているうちに、自然と近代以前の西洋美術をえりみさんに教えてもらったんです。
僕は印象派以後はある程度わかっていたんですけど、それ以前の美術となるとあまり知識がなかった。そのため、若い頃にルーヴル美術館やウフィツィ美術館に行っていたものの、その時は『ただ行っただけ』で終わってしまった記憶があります。
でも、西洋美術の根底にあるキリスト教の物語が1つわかると『あ、これも知ってる』『これはあれの続きか』と、絵のなかで聖書のストーリーが連なってるっていうのがわかってくるんです。だから、僕にとってもえりみさんは『個人教授』みたいな存在だったんです」(鈴木氏)
宗教美術における文脈や作法を理解すると、美術鑑賞は格段に楽しくなる。一方で、藤原氏も身近な人と宗教美術を観た際、キリスト教の物語と紐付けて絵画を見ることの難しさを実感したといいます。
「3年前に夫とローマを見て回ったのですが、夫はデザインの仕事をしていて美術にも詳しい方ではあるものの、それでも宗教美術に関してはどのような場面かを知らない作品も多かったです。そのため、私が解説しながら鑑賞しました。
特にバチカンはそうですが、ヨーロッパの都市ではいたるところで宗教美術が展示されています。そのため、基礎知識がない状態ではガイドや解説なしに芸術や文化を楽しむのは本当に難しいんです。
学生にもよく言っていますが、時代背景や作者の生き方の知識がなくても、もちろん作品自体は鑑賞できます。しかし、作品のバックグラウンドを知ることで、読み解ける幅が一気に広がります。そこに『美術鑑賞の醍醐味』があります」(藤原氏)
独学で数年かかるものが、講座では半年で理解できる
とはいえ、宗教画を一人で体系的に学ぶのは難しいもの。旧約・新約ともに、聖書の物語は膨大かつ複雑で、同じ人物がさまざまな場面で登場し、名前も似通っていて混乱しやすいです。
「以前、一般向けの市民講座で宗教美術について話をしていた際に、『西洋絵画を理解したいと思って、聖書を頭から読み始めたけど、途中でつらくなって挫折した』という方がいました。聖書は必ずしも頭から読むものではなく、むしろ順番通りに読んでも、なかなか頭に入ってこないと思います。一方で、宗教美術では頻繁に取り上げられる重要な場面があります。
今回の講座では、キリスト教の宗教画に限定し、旧約・新約聖書の物語を描いた作品を深く掘り下げていきたいと考えています。また、第一回目の資料の最後には推薦図書もピックアップしてご紹介したいと思っています。今回の講座をきっかけに、ぜひ理解を深められていただきたいですね」(藤原氏)
藤原氏が語るように、講座のメリットは専門的な知識なしには理解に時間がかかってしまう専門的な知識を、専門家の視点が大切なポイントをおさえ、一つひとつをしっかりと理解できること。
特に藤原氏、鈴木氏の二人は現役の美術ジャーナリストであり、大学講師でもあります。雑誌の紙面づくりの眼差し、そして教育者としての視点から、本講座を組み立てています。鈴木氏は「講義を起点により深い学びを探求してほしい」と語ります。
「大学の授業は週1回あるので、予習や復習もそこまで重視されないことが多いんです。でも、この講座のように月1回のペースであれば、その分読書などを通じて理解を深める時間も取れますし、内容もぐっと濃くなると思うんですよね。
ただ、読書だけだとなかなか難しい部分もあって、本を読んで何年もかけてやっとわかることが、このような講座に参加することで半年で理解できる。そういう意味で、講座は非常に効率がいい学びの手段でもあるんですよ。
あとは、やはり学んだことはすぐに実感できるほうがいいと思っていますので、僕たちがおすすめしたい今開催されている展覧会など、リアルタイムの情報もこの講座の中でシェアしたいと思っています」(鈴木氏)
宗教画を知ることは、『アートの今』を理解する糸口にもなる
藤原氏と鈴木氏は、歴史や知識を教えるだけではなく「自分がどう美術と出会ってきたか」「現場でどんな気づきがあったか」といった生の体験談をベースに、参加者とフラットに対話しながら講義を進めていきたいと語ります。
本講座は毎月一度、計6回の講座を行いますが、特徴的なのは鈴木氏がナビゲーターを務めるアートコミュニティ「ビジュツヘンシュウブ。」にも参加できる点です。
ビジュツヘンシュウブ。では、学びのアウトプットから展覧会情報のシェアまで、講師と受講生の垣根を超えた気軽なコミュニケーションが取れ、学びの輪を広めることができます。学びと同時に、日常の延長に美術が自然と入ってくる。その小さなきっかけが、深い理解と豊かな感動につながっていきます。
「今では誰もが検索をして情報を得ることができますが、やはりその人自身の実体験を通じた知見を共有し、学び合う場はとても貴重だと思います。なので、講義ではできるだけ効率的に、要領よく知識を身につけてもらって、あとは展覧会に行って実際に作品を見る。さらにいえば、旅をしてでも『体験する』ことが大事だと思うんです。
さらに言えば、現代アートにも、古典的な宗教画のモチーフが引用されていたり、その文脈を知っていないと理解できないものがたくさんあります。印象派以降の近代から現代にかけての作品にも、そうした知識が前提になっている場合が多いです。
つまり、宗教画を知ることは、決して『昔のものを知って終わり』ではなく、『アートの今』をより深く理解するための糸口にもなります。ビジュツヘンシュウブ。はさまざまなアート好きが集っています。ぜひこれをきっかけに、美術全体の見方が変わる体験をしてほしいですね」(鈴木氏)
宗教画をきっかけに西洋美術の「扉」を開く本講座。初心者でも安心して参加できるよう構成されているので、西洋美術を「なんとなく難しそう」と感じていた人にこそおすすめしたい講座です。
講座情報
ビジュツヘンシュウブ。presents「西洋美術史の『見方』が変わる6か月講座」
概要:西洋美術史は「おさえておくべきポイント」を学ぶだけで、飛躍的に知識が増えていき、楽しみ方の幅が一気に増えていくものです。国内美術館はもちろん、海外の美術館や旅の楽しみ方がまるで変わります。本講座は、美術ジャーナリスト・藤原えりみ氏と鈴木芳雄氏により、西洋美術史の骨格をなすキリスト教美術、いわゆる「宗教美術」にフォーカスし、絵画鑑賞における最重要ポイントを学びます。近現代アートにも受け継がれる「絵画の文脈」を学ぶことで、西洋美術の「見方」が変わる6か月。初心者から本格的なアートを学びたい方まで、ぜひご応募ください。
期間:7月17日(木)〜12月18日(木)全6回(毎月第3木曜日)
時間:19:30〜21:00
※第1回と第6回は21:30まで
受講料(全6回通し、税込)
一般価格:¥66,000 (1ヶ月あたり換算/¥11,000)
※コミュニティ「ビジュツヘンシュウブ。」の6ヶ月分(¥23,100)の会費込み
※決済は全6回の一括決済になります。
【好評につき追加募集!】ビジュヘン。部員特別価格:¥33,000( 1ヶ月あたり換算/¥5,500)
※一般の方も、7月16日(水)までにアートコミュニティ「ビジュツヘンシュウブ。(会費:3850円/月)にご入会の上お申し込みいただくと、部員特別価格で受講できます。
※決済は全6回の一括決済になります。
定員:30名(先着順)
※定員に達し次第、募集を締め切らせていただきます。
会場:オシロ株式会社イベントスペース
東京都渋谷区渋谷1丁目3−3 ヒューリック青山第二ビル 8階
https://osiro.it/company
※本講座はオフラインでの開催となりますので、会場までお越しいただく必要があります。