2025年5月より開講するビジュツヘンシュウブ。がお届けする美術史講座『NUDE ーアートはいかに「身体」を捉えてきたのか』。それに先立つ4月14日、講師を務める美術ジャーナリスト・藤原えりみさん(以下、えりみさん)とビジュツヘンシュウブ。ナビゲーターの鈴木芳雄さん(以下、芳雄さん)による説明会が開催されました。

本記事では、説明会でのおふたりの説明から、テクノロジーやAIの進展した今、連綿と続く西洋美術史のなかで「身体」にフォーカスし、学んでいくことの意義を紐解きます。

ビジュツヘンシュウブ。とは
ブルータス元副編集長 鈴木芳雄さん(通称:フクヘン。)のナビゲートのもと、「アートを巡る、知る、伝える」をコンセプトにアート愛を分かち合うオンラインコミュニティ。世代や性別は不問、アートや美術館への知識がなくても大丈夫。大切なのは、「アートをもっと知りたい、好きをもっと深めたい」という気持ちだけ。ビジュツヘンシュウブ。では美術史講座のほかにも、アーティストや著名雑誌の編集長(経験者を含む)とフクヘン。の対談イベント、アトリエ探訪、ギャラリーツアーの開催など、幅広いアクティビティが用意されています。美術を学ぶだけでなく、編集部員(コミュニティメンバー)が交流し、楽しみ、新しいアートへの扉が開かれる。ビジュツヘンシュウブ。は、そんな体験を分かち合える場です。

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4月14日に開催した美術史講座『NUDE ーアートはいかに「身体」を捉えてきたのか』説明会のアーカイブは下記のURLで公開されています。ぜひ合わせてご覧ください。

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あえて初回講義を『SFアニメーション』をテーマとする理由

今回の講座『NUDE ーアートはいかに「身体」を捉えてきたのか』は、西洋美術を中心として人間が視覚芸術として表現してきた「身体」の歴史を5回にわたり学んでいくもの。しかし、下記のように講座初回は現代、しかもSFアニメーションに描かれる身体をテーマとしています。

『NUDE ーアートはいかに「身体」を捉えてきたのか』

講義テーマ
vol.1 「見える身体/見えない身体」

テクノロジーにより拡張される「わたし」。霧散する「身体」。

vol.2 身体イメージに侵食する「精神世界」
なぜ古代ギリシアは裸体を礼賛し、中世キリスト教社会は身体を抽象的に描いたのか?

vol.3 理想的身体の復権
ルネサンス・宗教改革を経て花開く身体美の探求

vol.4 THE NUDE VS THE NAKED
「現実の身体をみつめる眼差し」はいかに形成されていったのか?

vol.5 身体の解体と抽象の衝動
近現代芸術が描いた「新しい人間像」

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時系列を辿るのであれば、第2回で取り上げる古代ギリシアの図像から始まるものですが、えりみさんはなぜ初回をSFアニメーションの身体像を取り上げることとしたのでしょうか。

「たとえば、士郎正宗さんの原作となる漫画をつくり、押井守監督によって1995年に初めて映画化された『攻殻機動隊』は約30年前の作品ですが、絵も内容もまったく古びておらず、今の私たちとリアルタイムでつながるリアリティを持っています。現在、私たちはスマートフォンを手放せず、外部の記憶装置に脳の記憶を委ねている状態であり、これは身体が拡張していることを意味します。これを30年前に予見していた内容は驚くべきものであり、その実感を共有したくて今回の講座で取り上げることにしました」(えりみさん)

SF(サイエンス・フィクション)は、制作された時代の未来を思い描き、表現される物語ですが、それは「予見」ともいえるほどのリアリティを感じさせます。えりみさんが語るように、現代はインターネットやAI、ウェアラブルデバイスなどの出現により「身体が拡張」されているといえます。

一方で、今後より一層身体がインターネットとつながり身体が拡張していくことが確実視されるなか、私たちは「自己とはなにか/存在とはなにか』という、これまでの人類が直面したことのない問いを考えざるを得なくなっています。

「普段私たちは意識していませんが、自分自身の身体を直接見ることはできません。鏡に映る姿は左右が逆転していますし、自分で自分の背中を見ることも不可能です。つまり、自分にとって『見えている身体』と『見えていない身体』が存在するということです」(えりみさん)

サブカルチャーとして分類されがちなアニメーションですが、えりみさんは「インパクトを残してくれる表現は、アートも文学も演劇もすべて等価である」と断言します。特にSF作品が描く「人工的な身体への置換」というテーマは、MR(複合現実)やXR(クロスリアリティ)が日常に浸透しつつある今の私たちにとって、極めて切実なリアリティを帯びています。

現代の揺らぎを入り口にすることで、2500年前の古代ギリシャ人が追求した「理想のプロポーション」が、決して教科書の中の死んだ知識ではなく、自分たちの実存を探るためのヒントとして蘇ってくるのです。

「裸体」を巡る禁忌と復権を巡る旅

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現代の身体観を整理した上で、第2回からは歴史の深層へと潜っていきます。西洋美術史において「身体」を語る上で避けて通れないのが、理想化された裸体である「ヌード」という概念と、それを規定してきた社会的な精神性です。

西洋の美意識の源流である古代ギリシアにおいて、身体は徹底的に讃美される対象でした。ここで重要になるのは、最初に「完全体」として造形化されたのが、男性の青年像であったという事実です。

「古代ギリシアで理想のプロポーションが追求された背景には、当時のオリンピックの存在があったという説が非常に興味深いです。男性競技者が裸体で競い合い、極限まで高められた身体能力を示す場。そこでの『常人を超えた身体』こそが理想のモデルとなり、彫刻として固定されました。対して、女性の完全な裸体像が登場するのは、それからさらに3世紀も後のことになります。当時の社会において女性の身体は秘匿されるべきものであり、女性のイメージが『男性から見られるもの』という枠組みに囚われてきた長い歴史は、私たちが美術を紐解く上で押さえておくべき重要なポイントです」(えりみさん)

しかし、この身体礼賛の文化は、キリスト教の浸透によって劇的な転換を迫られます。

「キリスト教にとって裸体は、アダムとイブの『原罪』に結びつく羞恥の対象となりました。そのため、中世の約1000年もの間、聖書の中で裸であったと記述されている場面以外で、人間の身体が視覚的に造形されることはほとんどなくなりました。身体の表現は抽象化され、精神世界が絶対的なものとして優先されたのです」(えりみさん)

この「身体の沈黙」の時代を経て、14世紀後半のフィレンツェでルネサンスが起こることで、ようやく「古代の再生」が果たされます。自分たちのルーツである古代ギリシア・ローマ文化を再発見した人々は、人間中心主義(ヒューマニズム)のもと、再び完全な裸体像の視覚表現を復権させました。

講座の後半では、近代ヨーロッパの変革がもたらした芸術的なヒエラルキーの崩壊と、そこで巻き起こった「ヌード(理想化された裸体)」と「ネイキッド(生々しい現実の裸)」を巡る論争を紹介し、現代アートへと向かう身体表現の形成プロセスを追います。

美的な理想化から、解剖学的な知見、そして現実の肉体をありのままに見つめる視点へ。

本講座は、キリスト教美術と古代から繋がる造形美術という二つの大きな柱が、いかにして時代ごとに「身体」の定義を書き換えてきたのか。そのドラマチックな変遷を5回の講義から辿ることで、私たちが無意識に抱いている「美しさ」の正体を浮き彫りにしていきます。

正解のない時代に、対話を通じて「身体」そして「生」を捉え直す
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全5回の講義を通じて描かれるのは、約2500年にわたる人類の「眼差し」の歴史でもあります。かつての芸術家たちが、その時代の美のあり方や社会規範の中でいかにして身体を見つめ、描いてきたのか。その軌跡を辿ることは、現代を生きる私たちにとって、なによりの道標となるはずです。

一方で、本講座の魅力はえりみさん、そして芳雄さんという、二名の著名な美術ジャーナリストがそれぞれの視点から解説や問いかけが行われる点にあります。えりみさんと芳雄さんはかつて『BRUTUS』の美術特集でコンビを組み、数々の大学で講師に招聘されるほど深い造形を持つおふたりにより、講義内容は深みを増していきます。

説明会では、西洋美術における身体について、芳雄さんからは以下のような話があり、えりみさんとの議論が盛り上がりました。

「西洋の身体意識は、自然と対峙し、人間を中心に据える宗教観から生まれています。一方で、日本や北欧の感性は、山や滝、光といった自然の中に神聖さを見出す点で共通しています。人間を世界の中心とするヨーロッパの視点とは異なる、こうした自然と身体の距離感の違いを知ることは、アートを多角的、俯瞰的に捉え直すための大きな武器になります」(芳雄さん)

また、現在も精力的に美術館や展覧会を取材し、さまざまなメディアに記事を寄せる芳雄さんがいることにより、講座中に登場する作品に関連した美術館情報も知れることは本講座の大きなメリットでしょう。

今回の説明会でも、芳雄さんが最近訪れたニューヨークの美術館事情についても触れられました。メトロポリタン美術館などの名画がどのようにコレクションされ、あるいは現代においてどのようにキュレーションされているのか。最新の実地情報に基づいた知見が講義に盛り込まれるのも、本講座の醍醐味です。

「講座では様々な角度から脱線を交えながら、視点を広げていく予定です。前回の講座では、終わった後にみんなで食事に行って、そこで交わされた美術談義も非常におもしろかったです。そうしたライブ感も含めて、楽しみながら参加してほしいですね」(えりみさん)

美術史を単なる暗記すべき知識ではなく、自分たちの「今」をより良く生きるための教養として。ビジュツヘンシュウブ。がお届けするこの5ヶ月間の旅は、参加者一人ひとりのなかに、新しい「世界への眼差し」を形づくってくれることでしょう。

参加者募集中
美術ジャーナリストと探る美術史講座
『NUDE ーアートはいかに「身体」を捉えてきたのか』


開催概要
2026年5月15日(金)〜2026年9月18日(金)
毎月第3金曜19:00〜20:30(※)開催、全5回実施
※ vol.1とvol.5のみ21時まで

開催日程
2026年5月15日(金)19:00〜21:00  vol.1「見える身体/見えない身体」
2026年6月19日(金)19:00〜20:30  vol.2 身体イメージに侵食する「精神世界」
2026年7月17日(金)19:00〜20:30  vol.3 理想的身体の復権
2026年8月21日(金)19:00〜20:30  vol.4 THE NUDE VS THE NAKED
2026年9月18日(金)19:00〜21:00  vol.5 身体の解体と抽象の衝動

※開催日時、テーマは変更となる場合がございます

会場
オシロ株式会社(東京都渋谷区渋谷1丁目3−3 SOA TOWER 8階)

詳細・お申し込みはこちら

https://bijuhen.com/events/9871d85d8f99